らめらたんのランドセル

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No.8 : 本格惨めターザン

 彼の名は中山贅煮。友人からは“中山ぜいにくん” と呼ばれている。その名に恥じない為に努力を重ねた。元々少食で細身だったが、余分な脂肪を付ける為にも1日24食を心掛ける。

 

 私は大学生。4年生になり、もう授業も25コマしかない。月火水木金、毎日5コマ有る。いや、有りすぎで草。就職活動はまだしていない。そう、授業が有るから。家から68km離れたコンビニエンスストアでアルバイトをしている。大学からは136km離れていて非常にだるい。こんな筈では無かったのだが受けたバは全落ち。やっと巡り会えたのがこのコンビニだったので出逢いに感謝し、ここで労働をしている。21時頃から土日以外は働いている。深夜は少し時給が上がり 25,000円/時 になる。強い、強すぎる。しかも山奥なのでそれ程客は来ない。ごく稀にカモシカやタヌキ、ウサギ、イノシシ、サメなどがやってくる。最後に人間が来たのはかれこれ1ヶ月前になる。辺鄙な土地に感謝。無駄に働かなくて済むから。

 大学が終わりバ先に向かう。タクシーを14回乗り換え、バスを3回乗り換える。そしてタクシーを4回乗り換えればバ先に到着だ(ニッコリ)。やっと着いて支度をする。このコンビニエンスストアでは、入店時に流れる音楽が「聖者の行進」である。これを聴くだけでテンションが上がる。レジに立ち、来るとは思えない客を待つ。すると聖者の行進が流れた。反射的に自動ドアの方を眺めると全身赤ずくめの如何にも“怪しい”奴が居た。彼は紙コップを手にする。そう、紙コップを。それだけ手にしてレジの方へ向かってきた。すると次の瞬間彼の目つきが豹変した。

 「手を挙げろ、さもないとこの紙コップの命は無いぞ。」

 私は戸惑った。紙コップは確かに我がバ先の商品ではあり大切な友だちだ。しかしコップの命など割とどうでもいい。そんなことを考え、挙げかけた手を下ろした。すると赤い奴は紙コップを床に設置し、足裏タックルを仕掛けた。紙で出来たそれは無惨な姿と化した。それをいざ目の当たりにするととても悲しく、さらには憤りも沸いてきた。気付いた時には赤ずくめの奴はレジの前に倒れ込んでいた。顔面は血塗れだ(笑)。どうやら私は怒りを抑えきれずにおでんのはんぺんで彼を殴ってしまったようだ。はんぺんの威力に脱帽した。もっとも、帽子は被っていなかったのだが。倒れている紙コップ人間を横目に、おにぎり18コを頭に乗せてレジに来た客を接客した。今現在、我がバ先ではおにぎり19コ買うと全部無料キャンペーンを実施している。当然コイツは18コ分の金額をお支払いすることになる。鼻で笑いながら会計をし、満面の笑みでまたの御利用お待ちしておりますと申し上げた。おにぎりは赤ずくめ人間を踏み散らかして店を出ていった。そして聖者の行進が響き渡る。爽快だ。その時、紙コップは起き上がった。すると一目散に店を出ていったのだ。私は確信した。遂にカラーボールを使う時が来たということを。それを手にして私も店を飛び出した。 だがサディオ・マネ並の快速を飛ばしている赤コップとの距離はかなり開いていた。推定される距離は500m。視力が27.06あるワイは奴の背中が見える。これは完全に長所だろう。距離があるとは言え逃がしてしまっては犯罪者を見過ごすことになる。そうなることは避けなければならない。私は覚悟を決め、カラーボールを投げた。橙色の球体は鋭いラインドライブを描きながら飛距離をぐんぐん伸ばしていく。そして、、ものの3秒程でそれは逃走犯に命中した。私はそれを確認しボソっと呟く。

 

 

 「俺も昔は“強肩”と呼ばれたんだよな。」